私の母について。結城美帆子

私の母は、私に一度も「ピアノの練習をしなさい」とか「勉強をしなさい」などと言った事がありませんでしたが、親として、やるべき事はやっていたと思います。大学に入学するまでは毎回レッスンには母と一緒に行っておりました。親がレッスンについて行く理由の一つは、先生がリサイタルを行う時にはチケットを購入しますし、CDを出されれば購入しますし、先生の門下生やお知り合いの方のチケットの購入を頼まれる事もありますので、親がやるべき事が結構あるのです。高校生の時は、音楽科の教諭が4人いらしたので、ピアノと声楽の個人レッスン担当の先生2人と、合わせて6人の先生方に盆暮れのご挨拶をしておりましたので大変だったと思います。視覚障害のピアニスト辻井伸行さんのお母様が「素人だからあそこまで出来るのよね」と、専門家の間で非難をされたことがありましたが、結構みなさん当たり前にやっている事で、できない人のひがみのように思っておりました。音楽の世界は人と人のつながりを非常に重んじますから、本人は練習で大変ですが、親は親でやるべき事がたくさんあって大変だったと思います。たとえば、東京芸大の教授にレッスンを受けたいと思っても、紹介をしてくれる人がいなければ、どんなに才能があってもレッスンを受ける事は不可能です。自分の子供の才能を伸ばすには、先生の人脈も大切なのです。私も音楽高校や音楽大学を受験する生徒は確実に合格をさせるために、受験校の力のある先生のレッスンを受けさせますが、すべての生徒を紹介できるわけではありません。コンクールを受ける生徒の場合も、全国大会で審査委員長をされる先生とダブルで指導する場合もありますが、やはりすべての生徒を紹介できるわけではありません。私が最初に習った丸山先生は、すごい人脈をお持ちのようでした。私が音楽高校を受験した時「もしもの時は、〇〇先生にお願いすれば大丈夫だから心配ない」と言われたのですが、あの時は意味がわかりませんでした。運良くお願いしなくても合格できましたが。なので、親に感謝なのです。